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著者名白岩貢
出版社名ごま書房新社
発売日2018年7月3日
ISBN9784341087036

2022年2月22日火曜日

僕もかつてバーのカウンターで友だちと同じ方向を見てしゃべっていた

三浦雅士は村上春樹のデビュー当時、その彼を論じながら、人と人とが対面で議論するのではなく、同じ方向を見ながらとめどない話をする時代の小説だ、というようなことを言っていた。僕はかつて池澤夏樹にインタヴューしたさいにこの三浦の指摘が当てはまるのは池澤の再デビュー作にして芥川賞受賞作『スティル・ライフ』ではないかと意見を述べたことがある。


バー小説などというものがあるとすれば、それはたとえば村上春樹『風の歌を聴け』であり、池澤夏樹『スティル・ライフ』である。そしてそれを小説に限らず映画や演劇にも敷衍してバー・ナラティヴなどというものを想定するなら、小沼純一作、坂手洋二演出『Speak low, No tail (tale). すぴいくろう のぅ・ている』燐光群@シアター・トップスがそれである。


猪熊恒和演じるマスターがいるカウンターだけのジャズ・バー〈スピーク・ロウ〉はもちろん、クルト・ヴァイルの曲から取った店名だ。レコードに針を落とす音が聞こえるようなその店で、常連客の鴨川てんしと川中健次郎がマイルス・デイヴィスやジョン・ケージらの死を悼むような話をしているのは、1991年頃のことだろう。はじめてこの店を訪れたらしい山尾(杉山英之)は、実は卒論を書きあぐねていたときだったらしいことは後から分かる。その彼が就職し、最初仲間に連れられてきたものの後にひとりで来るようになったミチ(山本由奈)と親密になり、親密になりきれず、独立してライターになる。そんな漠然とした流れが、短い場割りでスピーディーに、しかし、人物たちの語る音楽への蘊蓄と時事的話題によってゆったりと描かれる。同じ方向を向いてしゃべると、時間はこのようにゆったりと流れるという好例だ。91年くらいだった時代は2001年に、そして2011年にまで到達する。


同じ方向を向くのはバーのカウンターで並ぶ客ばかりではない。家の窓から向かいの家の猫を覗く母と娘(中山マリと円城寺あや)や、その同じ猫に餌付けしようとする老女(西村順子)もまた一方向を向いてとりとめのない話(つまり猫の話)をする。バーでの話に挿入されるもうひとつのストーリーは「しっぽがない」を劇化したものかな? 「ぼく」(大西孝洋)と実家の両親と妹・紗枝(樋尾麻衣子)と犬を巡る思い出語りだ。小沼さんの猫や犬への偏愛が楽しい。


バーでの会話は引用やらほのめかしやらがあって、きっとわかっていないものも多々あるのだろうが、常連客の川中健次郎が地下鉄サリン事件に触れてタイミング次第では自分も危なかったと語りながら、内幸町にある許可を取りに頻繁に行くと言っていたのは、きっとJASRACのことだろうと、かつてバイトで何度かそこに許可を取りに行ったことのある身としてはそう思ったので、これだけは主張しておこう。


ところで、この物語が始まる少し前の時代からこの時代にかけて、僕もジャズ・バーに通った。友人たちと一緒に行ったり、山本由奈みたいな女の子(女性でも女でもないのだ。この時代は「女の子」でないと)と行って口説いては傷つけないように優しくふられたりしていた。ひとりで行ったこともあった。たとえば、それこそ村上春樹の『ノルウェイの森』に出てくる〈ダグ〉などだ。今日の舞台はその〈ダグ〉の初代店舗から、実は20メートルばかりのところ、すぐ目と鼻の先にあるのだった。きっとそんなことも考えてシアター・トップスが選ばれたのだと思う。


写真はイメージ。

2022年2月21日月曜日

今夜、非常階段で

スティーヴン・スピルバーグ監督『ウエスト・サイド・ストーリー』アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー他(2020


ロバート・ワイズ監督『ウエスト・サイド物語』(1961を通しで観たのは、実際には23度しかない(最初は1979年正月、テレビ初を銘打って正月特番で放送したTBS系列の吹き替え版。ナタリー・ウッドのマリアを大竹しのぶが、リチャード・ベイマーのトニーをトニーならぬ “トミー”、国広富之が、ジョージ・チャキリスのベルナルドを沢田研二が吹き替えた。合間に入るCMも確か資生堂の特別版。薬師丸ひろ子主演の数分のもの、……ってなことまで思い出したのだ、今日)し、僕はミュージカルにそれほどの趣味はないのだけど、それでも「ジェッツのテーマ」や体育館でのダンスでの「マンボ」が流れると滂沱の涙を流さないではいられないのだ(大袈裟)。


トレーラーで観るトニーとマリアの出会いのシーンでは主役のふたりが線が細すぎるような気がしてどうかなと思ったのだが、3時間近く観ているとこれでいいのだという気になるのだからやはり僕はだまされやすいのだな。今回はリフ役のマイク・フェイストがいちばんのあたりだったような気がする。


今年、卒業論文でトルーマン・カポーティの『ティファニーで朝食を』(1958を扱った学生がいて、その卒論を読みながらこの作品とその映画化作品(1961)、および『ウエスト・サイド物語』(原作舞台の初演が1957年、映画が61年)がニューヨークのアパートの非常階段をこの街の代名詞として印象づけるのにいちばん寄与しただろうし、場合によってはこれらがいちばん新しい舞台設定として非常階段を使ったと言えるのではないかとの仮説を立てたのだが、そんなことがあったので、今回、スピルバーグ版も観ようと思ったしだいなのだ。


もちろん、マリアとトニーの逢い引きのシーン、「トゥナイト」を歌うそのシーンは原作同様、非常階段を使っている。これはもちろん、その本歌取りの本歌であるところの『ロミオとジュリエット』の有名なバルコニーにシーンの応用なのだから、当然だ(そして『ロミオとジュリエット』はそれはそれで当時のグローブ座などの構造を利用するシーンであったわけだけど)。


ベルナルドとアニータが中心となる男女での言い合いの歌「アメリカ」のシーンはワイズ版との違いがくっきりわかるところ。夜の屋上でのシーンを朝の街中に変えて街中を巻き込んで単なる男女の意見の対立に終わらない多様性を打ち出している(このシーンのロケにはジャームッシュの同名の映画の街パターソンも使われている)。


実際、スピルバーグ版の今日的で優れているところは、プエルトリコ人たちの不良少年グループ〈シャークス(シャーク団)〉と、それ以前の移民の子(イタリアやポーランド、等々)で既に「アメリカ人」であるもののステップアップができないでいる〈ジェッツ(ジェット団)〉の対立の話を、ワイズ版などよりははるかに丁寧に本当らしく作り込んでいることだ。ワイズ版のベルナルドを演じたジョージ・チャキリスは格好良かったけれども、彼の発する “¡Vámonos muchachos!” というせりふはどう贔屓目に見てもプエルトリコ人には到底思えなかった。今回、マリア役のレイチェル・ゼグラーは母親がラティーナであるらしいが、本人はプエルトリコ系との意識はないだろう。が、言語指導を受けて立派なスパングリッシュをしゃべっている。ワイズ版を確認したわけではないので印象で語っているのだが、せりふはだいぶラティーノ化したのではないだろうか? 


ワイズ版でアニータを演じたリタ・モレーノが製作総指揮のみならず、ドラッグストアのドックの未亡人という新たに設定された役バレンティーナとして出演もして参加している。


そして音楽はニューヨーク交響楽団、指揮はグスタボ・ドゥダメルだった! 彼はエル・システマのユース・オーケストラを指揮していたころにはよく「マンボ」などを演奏していたのだ。


写真はイメージ。去年の今ごろ。

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つる子と二葉

二葉を探してつる子を見つけたので、行ってきた。林家つる子独演会@日本橋社会教育会館。


昨年のNHK新人落語大賞を受賞した桂二葉(かつら によう)という人物が実に興味深く、彼女のYouTubeなどを覗いてみると東京でも独演会を開くとか開かないとか言っていたので、探してみたらそれらしいものは見つからず(正確に言うと、既に完売していた春風亭一花とのふたり会以外では見つからず)、代わりに(?)つる子の独演会の情報を見つけたので、彼女にも興味のあった僕としてはまあいいか、何かのついでだと思って行ってきたのだ。


つる子と二葉はくだんの落語大賞の決勝戦に残った二人の女性落語家。結果は二葉が満点で史上初の女性大賞受賞者となった。ふたりは東京と大阪というだけでなく、実に好対照だと思う。


つる子は長いとまでは言わないが短くはないウェーヴのかかった髪を高座ではびっしりとひっつめ、男物の着物を着て、その整った顔をこれでもかと歪めて表情を作ってそれをも笑いに転じようとする。そのくせ古典を女性の立場から語り直すなどしている。「芝浜」をおかみさんの立場から語りなおしたいと表明しているのをどこかで見て、いつか見たいものだと思っていたのだが、それは既に架けたことがあるらしく、先日、NHKのドキュメンタリーでその様子を扱っていた。


 二葉はマッシュルームカット……というかおかっぱで(かつてはアフロだった模様)やんちゃな男の子のような童顔。誰かがじゃりン子チエのようだと言っていたが、首肯できる。表情を作っていますという素振りは見せないのだが、高い声を基調に様々に声色を使い分ける。男の子のような童顔と書いたけれども、似合わないからと男物の着物を着ることを拒み、女物で通す。そして正統派の古典をやる。



(こんな感じ)


で、まあ、ともかく、そんなわけで、今回は二葉ではなく、つる子を見てきたわけだ。


「バレンタインデー・キス」の出囃子に乗って出て来て、タクシーの運転手との話をまくらに人力車に話を持っていき、どうやら得意の演目らしい(YouTubeにも上げている)「反対俥」のアクションで笑いを取る。二席目は柳家小ゑんの新作「ぐつぐつ」。おでんの具の会話なのだが、かぐやひめの「神田川」をモチーフにしたカップルの会話などをはさんでめっぽうおかしい。


三席目、最後は「芝浜」ならぬ「子別れ」をおかみさん(お徳)の立場から語り直したもの。


「子別れは」上・中・下とあって通しでやるととても長い話なのだが、おそらくいちばんポピュラーなのは下の別名「子は鎹(かすがい)」。酒と女で身を持ち崩し、妻と子に出て行かれた大工の熊五郎が心を入れ替えて酒を断ち、子供と再会、妻と復縁するというのがおおよその内容。その父と子の偶然の再会を描かず、女手ひとつで子(亀吉)を育てるお徳のつらさをたっぷりと語り(その間に上と中の内容もダイジェストで織り込み)、熊と亀が再会しているはずの時間に、亀の帰りが遅いと心配する長屋の女連中の井戸端会議を創作してここで笑いを取り、人情話を湿っぽいだけのものにしない配慮が嬉しい。そして彼女はこういう女たちのシーンが実にうまい。アクションと表情だけではなく、間や話の中身が実に面白いのだな。時代が一気に明治のころから1980年代くらいまで下る感じがするが、それくらいのことはあっていい。

2022年2月12日土曜日

そして本を売ろうじゃないか

ALL REVIEWS というのに参加している。鹿島茂の発案で始まった書評サイトで、過去に書いた書評をウェブ上で公開するというもの。通販サイトにもリンクがあり、この書評経由でそこのサイトに飛んで誰かがその本を買えば、少しばかりではあるがその書評家にも何らかの利益が還元されるというもの。


で、そのALL REVIES は書評サイト以外に公式YouTube チャンネルでいろいろなイベントを配信しているのだが(たとえば沼野充義さんの最終講義配信。僕も一度、豊崎由美さんとクラリセ・リスペクトルについての話をしたことがある)、これを配信しているスタジオとは別に新たに場を設け、スタジオ兼書店を開くことにしたようだ。その名もPASSAGE


こんな外見だ。神保町にある。さぼうるのすぐ近く。


ここの書店はALL REVIEWS に参加している書評家やその他、希望した人に棚を貸し、その人たちが売りたい本を売るという形式の書店なのだ。僕もその一画で書店を開くことになっている。ディドロ大通りと名のついた区画だ。



ここだ。一部は宅配便で本を送ったのだが、もっと入りそうだったので、今日、数冊持ってきたという次第。今のところは重複して買ってしまった本や、僕自身の著書・翻訳書で献本のためにたくさん買ったけれども、買いすぎて余っている本などを置こうと思っている。

2022年2月10日木曜日

本を読むにはノートから

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もう何度も書いているとおり、僕は基本的には Moleskine 渡邉製本の Booknote  とを交互に使っている。


ところが、最近、モレスキンがどの万年筆を使っても裏ににじむようになってきた。一項目につき必ず見開きで使うようにしているので、時には右側のページが空白のままのこともある。だからにじんでもどうということはないと言えば言いうるかもしれない。が、やはりあまりいい感じはしないものである。


タイプによってはローラーなどで書いても裏染みが気になることがある。困ったものである。


いっそのことモレスキンをやめようかと思う。


さりとて Booknote のみだと飽きっぽい僕にはリスクがある。


今回、使ってみたのは、以前、使ったこともあるミドリのMDノート。これは悪くはない。が、普通のA5だとページの幅が広い。モレスキンのいいところは、幅が四六判の本くらいなところなのだ。それが使いやすいし、持ち運びにいい。そしてBooknote はカスマイズ可なので、幅をそのようにカットしてもらう(下の写真左)。



で、MDノート。これに新書サイズというのがあったので、使ってみたのだ(写真右)。年末から昨日まで。それが稼働していた。悪くはない。が、やはり少し小さくて物足りない。


コクヨのナンバード・ノートブックというのにA5変形版というサイズがある。



これだ(写真左)。Booknote の次はこれを試してみようかと思う。その名の通り最初からページ数(ノンブル)がふってあるので、いい。


ちなみに、右にあるのはハンス・シュターデンのスペイン語訳。まさかこれを持っているとは自分でも知らず、昨日、大学の自分の部屋で見つけて大喜びしたのだ。

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明日は大雪、本でも読もう

2月に入ってからすっかりブログの更新を怠ってしまった。


4日には卒論の口頭試問があった。


それに関係してくるので、グレタ・カーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』シアーシャ・ローナンほか(USA, 2019を観た。評判を聞きつつも見損なっていたやつだが、なるほど、すばらしかった。


5日には東北大学主催のソル・ケー・モオの講演会をウェビナー聴講。9歳から祖父に性的に虐待されてきたという話から始まり、ラテンアメリカのそしてメキシコの文学から女性が排除されていたさまを概観、現在の自分のマヤ語で書くフェミニスト作家としての心情を説明。



こんなふうにノートを数ページ、取った。



本来なら6日なのだろうが、その日は日曜だったため、4日になったと思う。『すばる』3月号にバルガス=リョサとガルシア=マルケスの対話の記録 Dos soledades から3本のインタヴュー記事を訳して掲載した。


7日が修士課程の入試二次口述試験。そして今日、9日が博士の二次口述、および修士論文の口頭試問。シャーリー・ジャクスン、『レモネード・ジョー』、マリオ・バルガス=リョサ、ジュリー・オオツカ、アンドレイ・ベールイ……


つまりこのところ忙しかったのだ。他者の文書に埋まっていたと言おうか。


残るは来週のミラン・クンデラについての博士論文審査。


さて……

2022年1月28日金曜日

世界を創るのだ


机の前にこんなものを貼ったりする。


これは19世紀に描かれた絵なのだが、この情景についての記述が翻訳中の小説にあり、小説の描写どおりに訳したものの、今ひとつその訳に自信が持てず、未知のその場所の映像を探したら、結構数多く見つかった写真よりもこれがいちばん小説の描写に近いだろうと思われた。それで、既に公共財産(パブリック・ドメイン)であるこの絵をプリントアウトして机の前に貼り、それを見ながら訳文をチェック。


いや、本当は貼る前にこうして原稿のすぐ近くでチェック。以後もこの舞台には言及されるので、その後、コルクボードに貼った。サンティアーゴ・アルバレスの絵はがきが見えるのは何年か前にアテネ・フランセでこの監督のレトロスペクティヴを見たときのもの。写真で見にくいかもしれないが、コルクボード左隅の絵はがきはホセ・グティエレス=ソラーナ「カフェ・ポンボでの集会(テルトゥリア)」。これには、そういえば、放送大学の収録で言及したのだった。気になる方は4月からの授業「世界文学への招待」第10回をどうぞ。


あるところに引用しようと思ってジョルジョ・アガンベン『書斎の自画像』岡田温司訳(月曜社、2019)を読み返し、この本への愛着を新たにしたのだが、それというのも、もうひとつの翻訳中の小説に通じる何かを感じたからだ。そして、その何かに導かれて、僕自身の書斎の写真を上げているのだろうと思う。


アガンベンの本は自分がこれまで使ってきたいくつかの書斎の写真に映った本や写真などを手がかりに他の知識人などとの交流を想起するという本。机や本棚に写真やもらった手紙などを飾ってひとつの世界に作り上げているので、その世界の叙述が可能になるということ。


もうひとつ翻訳中の小説というのは、あるあくどい医者によって記憶を操作された人物が、他の医者の治療によって取り戻した記憶を語る、そしてその語った記憶がトロツキー暗殺に関わって来るもののそれであった、という作品。記憶を取り戻すことに尽力した医師というのがオリヴァー・サックスで、彼はマテオ・リッチの「記憶の宮殿」をヒントに、当該の人物に居住スペースの壁などに貼った紙に、Ⅰ箇所1項目の原則で思い出や知識などを書かせていくという治療を施したというのだ。つまり、その患者の病室を彼の脳内の反映たるひとつの世界にしたのだ。


書斎や居住スペースを自分の脳内の延長として、かつ、それを世界として構築するというのが、つまり、現在の僕の関心事。

2022年1月21日金曜日

判子文化に嘆息を漏らす


えへへ。こんなのを買ったのだ。


もう何度も書いているとおり、一冊のノートにほとんどすべての記録を集約させている。さすがにデジタル器機をたくさん持つにいたり、日々のスケジュールはMacの〈カレンダー〉で、買い物メモは同〈メモ〉(iPhone で見るのだな)で済ませているし、(そしてこれは以前からのことだが)大きなテーマに関しては別のノートを作るには作る。が、ともかく、日記から読書の記録、備忘録まで、大抵は一冊のノートで済ませる。


日記ということは、業務日誌でもある。どの仕事をどこまで終わったとか、この仕事に関しては次に何をする予定だ、というようなことも書く。理系の人たちの実験ノートのようなものだ。


で、業務日誌であろうが日記であろうが、最近、少し変化をつけるために、書いた予定を遂行した後には、そこに赤字で○で囲んだ「済」の字を書くことにしていた。紙でのゲラが減り、以前ほど赤ペンを使わないからさびさせないためかもしれない。ともかく、そうしていた。


で、こんなものも判子があるのではなかろうかと思いついて探してみたら、案の定、あった。買ってみたのが、写真のブツ。


今日は神田外語大の本田誠二さんの最終講義だった。それが午前中の、いわゆる2限の時間帯(神田外語の時間割では3-4限と言ったかもしれない。確かではない)なものだから、対面でやっていたらきっと行けなかっただろうけれども、zoom での遠隔講義だったため拝聴できた。通常の「スペイン文学史」の授業の最終回としての講義(私立大学の最終講義にはこの形式が多いように思う)で、今日はカルデロン・デ・ラ・バルカの話だった。カルデロンの La vida es sueño (『人生は夢なり』と訳していた)を紹介してセルバンテスと対比(人生においても作品においても)。「生きることは夢見ること」とのテーゼを独自に考察、「真っ当なこと、常識的なことを言ったときに人は死ぬのだ」と。うむ。なるほど。


最後はごく最近のモイセス・マトの El sueño es vida という劇を紹介、これをひとり芝居で演じたティンボ・サンブ(セネガルからボートピープルとしてスペインに渡った俳優)に話が及んだ。

2022年1月18日火曜日

ふんばる君、がんばる


ふふふ。これは何でしょう? この手前に横たわる段ボールと本棚に立てかけてある段ボール……



本棚だ、もちろん。


リヴィング兼書斎の空いていた壁に幅90cm×高さ200cm×奥行き19cm の棚を2本、入れてみた。


オーダー収納スタイルの本棚。幅が指定できるので、ここの本棚を数本持っている。



本棚の耐震対策は、これ。ふんばる君だ。



こんなものを……



こんな風に家具の下に噛ませて(本当は幅いっぱいに使ってもいい。どうも僕は貧乏性で困る)、言ってみれば、これで壁に押しつけるわけだな。これが実に心強い。実はオーダー収納の本棚は、これまでに手に入れたのは無料でこれに類するものがついてきたのだが、今回はなかったので、新たに買って補強したという次第。


でもこれも、1年もすればほとんど埋まってしまうんだろうな……



とはいえ、新しいものを入れていくというよりは、いちばん机に近いここには参照頻度の高いものから入れていく予定。辞書などのリファレンス類に、よく参照する本。稼働中の書類はブックタワーに置いているので、そうではなくて、稼働中の仕事にもちょっとしたことにも、ともかく、引っ張り出すことの多い本、だ。

2022年1月13日木曜日

新しい眼鏡、新しい小説


眼鏡を買い換えたのだ。


だいぶ早い時期(40歳前後)には老眼が始まったものの、それまでずっと視力が1.5できたものだから、眼鏡になれないしかけている自分の格好に違和感があるしで、人前で眼鏡をかけることを極力避けていた。東大に移ったのを機に(つまり50の歳に)遠近両用(少し乱視入り)を日常的にかけることにした。それで、最近、また少し目が悪くなったようなので、買い換えたのだ。


僕は個人的にはボストン・フレームの眼鏡が好きだ。たまらなく好きだ。で、書物を巡るイメージ写真などでは圧倒的にボストン・フレームの眼鏡が使われると認識している。


ところが、残念なことに僕はボストン・フレームが似合わないのだ。むしろ、ウディ・アレンのようなウェリントン・フレームがいいようだ。今回、眼鏡屋の店員も同意していた。ジャン=ポール・ベルモンドは好きで、彼になりたいと思ったことはあるけれども、ウディ・アレンは好きだけれども彼になりたいと思ったことは特にない(とはいえ、気づいたらだいたい同じ格好をしている。チノパンにツイードのジャケット)。だからウェリントン・フレームなど気が進まなかったのだが、ともかく、これがけっきょく落ち着きそうだからしかたがない。このフレームにした。もちろん、ウディ・アレンのような大きな黒縁ではない。軽く薄いやつだ。


そして、イメージ写真を撮ってみたら、でもまあ、これも悪くない。


映っている本はフランソワーズ・サガン『打ちのめされた心は』河野万里子訳、河出書房新社2021事故の結果、退院後、それまでと同様の人間関係を家族と取れなくなった金持ちのボンボンの話なのだが、人間関係の取り結び方がそれまでのようにいかないのは、彼だけの問題ではない。周囲の者、家族のメンバーも、もはや彼を同じように扱うことはできないのだ。妻は離婚を切り出すし、父は息子に自身を取り戻させようと高級娼婦をあてがうし、そして父子して子の妻の母に恋をするし…… そんな一族の感情を扱った小説だ。


ところで、サガンには「ジゴロ」という短篇があった。初老の女性がひいきにしているジゴロに、彼の将来のことを考えて別れを切り出すと、ジゴロが彼女に本当に恋をしているのだと打ち明ける話。この話を僕は最初、読んだときによく分からなかった。けれども、友人が(それは高校時代のことだった)さりげなくそういう話だと言ったので、事後的に了解した次第。そんなことがあったせいか、記憶に残っているのだ。


意外なことに、ドタバタ風のところやら、登場人物が笑っているところやらもあり、これは晩年の新境地なのだとか。



眼鏡をかけた写真。

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